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Discover-Seq によるCRISPR/Casゲノム編集のオフターゲット検出

Child with telescope
 

By Stuart P. Atkinson, Ph.D.

July 27, 2023

はじめに:CRISPR/Casを介したゲノム編集を追跡する必要性

CRISPR/Casを介したゲノム編集は簡単で正確なプロセスですが、この技術を広く治療に応用するには、オンターゲットおよびオフターゲット効果の正確な特性評価が必要です。現在採用されているオフターゲット変異を検出するための解析は、次のようなものがあります。Digenome-seq (Kim et al..) 、CIRCLE-seq (Tsai et al.) 、SITE-seq (Cameron et al.) 、GUIDE-seq (Tsai et al.) 、BLISS (Yan et al.) などです。重要な点として、いずれの解析法も、偽陽性の出現や、in vivoにおけるゲノム編集の効率と安全性を評価できないなどの限界に悩まされています。

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DISCOVER-Seq:CRIPSR/Cas活性のオフターゲットを同定するためのアプローチ

このような問題から、Beeke Wienert、Stacia K. Wyman、Jacob E. Cornの研究室 (米国カリフォルニア大学バークレー校Innovative Genomics Institute) の研究者らは、in vitroおよびin vivoにおけるオンターゲットおよびオフターゲットのCRISPR/Casゲノム編集を偏りなく同定し、分子的に特徴付けるためのDISCOVER-Seq (“discovery of in situ Cas off-targets and verification by sequencing” ) を開発しました (Wienert et al.) 。 DISCOVER-Seqの基本は、内在性のクロマチンよりも、内在性のDNA修復因子が結合している配列を捕捉することにより、Casによって誘導されたDNA二本鎖切断の修復をモニタリングすることです。

ChIP-seq(Chromatin immunoprecipitation followed by sequencing) によって、化膿レンサ球菌 (Streptococcus pyogenes) 由来のCas9が切断する標的部位を認識するDNA修復タンパク質を探索した結果、著者らは二本鎖切断修復タンパク質MRE11に注目しました。MRE11はMRN複合体のサブユニットであり、DNA二本鎖切断の細胞内センサーとして機能し、DNA損傷応答を開始します。心強いことに、MRE11抗体を用いたChIP-seqは、多様なゲノム編集酵素 (Cas9とCas12a) の細胞内活性を分子レベルで捉えることができました。その後、DISCOVER-Seqパイプラインで使用されるカスタムソフトウェアBLENDER (blunt end finder) を用いたMRE11に対するChIP-seqにより、Casオフターゲット効果のin vivoにおける同定法を確立しました。

検証ステップにおいて、DISCOVER-Seqは、複数の『乱雑な』オフターゲット変異を生じることが知られるガイドRNA (ヒトK562細胞における“VEGFA_site2” (Tsai et al.) およびマウスB16-F10細胞における “Pcsk9-gP” (Akcakaya et al.)) 、オフターゲット変異が生じないガイドRNA (RNF2および “Pcsk9-gM”) 、および2つのオフターゲット変異を生じるHBB標的ガイド (DeWitt et al.) を正しく特徴付けることができました。また、DISCOVER-Seqは、試薬の毒性によりオフターゲットの発見が難しいとされるシャルコー・マリー・トゥース病の患者由来 iPS細胞において、オフターゲット変異の同定と対立遺伝子特異性の決定にも有用でした。最後に、研究チームはマウスモデルを用いてDISCOVER-Seqのin vivoでの可能性を検討しました。そこでは、精製DNA中の推定オフターゲットを同定し、アンプリコンシーケンシングによってヒットの可能性を網羅的に検証する技術 "VIVO” (verification of in vivo off-targets) と比較して、DISCOVER-Seqは良好な結果を示しました (Akcakaya et al.) 。

全体として、DISCOVER-Seqは、in vivoゲノム編集のオフターゲット変異を偏りなく検出するための普遍的なアプローチです。さらに、マウスおよび患者由来の iPS細胞で報告されたDISCOVER-Seqの性能は、ゲノム編集療法を受ける各患者の遺伝子内のオフターゲットの同定をはじめ、様々な治療応用において計り知れない可能性を示唆しています。

この魅力的な技術の詳細についてはScience 2019年4月号を、DISCOVER-Seqの詳細についてはSynthego社の最近のブログ投稿を、このオリジナル研究 (Wienert et al.) と同じチームによるDISCOVER-Seqを実施するための実験プロトコールと解析パイプラインの詳細な説明についてはNature Protocolsをご参照ください。

End-to-end Epigenetic Services

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DISCOVER-Seq+:さらなる改良

DISCOVER-Seqはこの分野における大きな前進でしたが、Taekjip Ha氏 (Johns Hopkins University/Howard Hughes Medical Institute, USA) が率いる研究チームは、この技術をさらに改良しました。MRE11は修復が活発な間はDNA上に一時的にしか存在しないため、研究チームは、MRE11の滞留時間を改善するためにDNA修復を薬理学的に調節すれば、MRE11の蓄積量が増加し、MRE11に対するChIP-seqによる検出感度が向上するという仮説を立てました。最近発表された論文において、研究チームは、in vitroおよびin vivoにおけるオフターゲット変異を同定するためのさらに高感度な方法として、“DISCOVER-Seq+”を報告しています (Zou et al.) 。

著者らはまず、オンターゲットおよびオフターゲット効果が知られているガイドRNAを用いたMRE11のChIP-qPCRアッセイにおいて、5種類のDNA修復阻害剤のいずれかが阻害されるかどうかを調べました。興味深いことに、ポリ (ADP-リボース) ポリメラーゼとATMセリン/スレオニンキナーゼを阻害しても効果は得られず、一方、DNAリガーゼIVを阻害するとMRE11のリクルートが抑制されました。しかし、DNA依存性プロテインキナーゼの触媒サブユニット (DNA-PKcs) (Cano et al.) を阻害してDNA二本鎖切断修復メカニズムである非相同末端結合 (NHEJ: non-homologous end joining) を阻害すると、標的部位におけるMRE11のリクルートが有意に増加しました。全体として、DNA-PKcsの阻害 (訳注:ここではKu-60648を使用) は、非相同末端結合修復経路をブロックし、MRE11に関連する相同性指向性修復経路 (HDR: homology directed repair) とマイクロホモロジー媒介末端結合 (MMEJ: microhomology-mediated end joining) を介したDNA二本鎖切断修復を優先させ、MRE11の滞留を増加させました。

DISCOVER-Seq+は、i) 患者由来の iPS細胞の編集、ii) がん免疫療法のための人工T細胞の作製、iii) マウスモデルにおけるCRISPRベースの治療法の?in vivo特性評価、の3つの評価用途において有用性が向上しました。最後に、この技術をヒト患者に向けてさらに進める一歩として、著者らは、DISCOVER-Seq+が、マウスの肝臓における心血管リスク遺伝子PCSK9を標的とした実験において、in vivoにおけるゲノムワイドなオフターゲット変異を直接観測できることを実証しました(Musunuru et al.) 。

全体として、DNA-PKcs阻害はCas標的部位へのMRE11の蓄積を促し、これによりDISCOVER-Seq+は他のアプローチよりも高い感度でオフターゲット部位をマッピングすることができました。著者らは、DISCOVER-Seq+が、ヒト患者における多様なCRISPR/Casゲノム編集アプリケーションにおいて、オフターゲット変異/配列を検出するための最先端技術として広く使用されるようになると確信しています。

DISCOVER-Seq+の開発と可能性については、2023年4月号のNature Methodsを参照してください。

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About the author

Stuart P. Atkinson

Stuart P. Atkinson, Ph.D.

Stuart was born and grew up in the idyllic town of Lanark (Scotland). He later studied biochemistry at the University of Strathclyde in Glasgow (Scotland) before gaining his Ph.D. in medical oncology; his thesis described the epigenetic regulation of the telomerase gene promoters in cancer cells. Following Post-doctoral stays in Newcastle (England) and Valencia (Spain) where his varied research aims included the exploration of epigenetics in embryonic and induced pluripotent stem cells, Stuart moved into project management and scientific writing/editing where his current interests include polymer chemistry, cancer research, regenerative medicine, and epigenetics. While not glued to his laptop, Stuart enjoys exploring the Spanish mountains and coastlines (and everywhere in between) and the food and drink that it provides!

Contact Stuart on Twitter with any questions


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